【愛とは。】12…麗 花萌ゆる8人の皇子たち18話から《二次小説》
「おまえを傷つけて、すまない」
その言葉を聞いて
瞳にうっすらと涙を浮かべるス。
顔、そして身体中につけられた傷よりも
もっと深いところに傷を負う
ソの心を想い、下を向く。
…
ゆっくりと顔をあげたス。
小さな掠れた声で
「陛下はなにを恐れていますか?」
「恐れ?」
「はい、怒りの原動力は恐れです」
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「恐れ、か」
「はい」
瞳を揺らして
「わたしは…わたしは、
おまえが離れてしまうのが、恐い」
「そして、おまえが
『わたしの人』でなかったのかと思うと
恐ろしくて…
寂しい」
喉をつまらせ涙を流すソ。
…
スは静かに、
小さいながらもしっかりした声で
「陛下、それは誤解です」
「本当か?」
「はい
わたくしは陛下の人であり、
陛下はわたくしの人です」
「ああ」
ギュッと目をつむり「信じよう」
…
「陛下、これからわたくしが話すことを
最後まで聞いていただけますか?」
精いっぱいの声で語りかけるス。
首を縦にふるソ。
苦しそうなソをしっかり見つめながら
「わたくしとウクさまは
かつて婚姻の約束をしていました」
不安そうに眉をひそめるソ。
…
「陛下はご存知だったでしょうか?
陛下や皇子さまたちとはじめてお会いしたころ、
わたくしが記憶喪失だったことを。
わたくしには16歳より前の高麗での記憶がありません。
記憶を失い、生きることに希望を失っていたとき、
力になってくれたのが又いとこのミョン姉上と、
その夫のウクさまでした」
「ああ」
「ウクさまは妹のようにわたくしの面倒をみ、
庇護してくださいました。
わたくしはウクさまのお屋敷で暮らしていたのです。
ウクさまは実質的にも精神的にもわたくしの保護者でした」
呟くように「そうであった…」
「わたくしはまだほんの子どもでした。
自分を守ってくださる兄上に淡い恋心のような感情を抱いていたのかもしれません」
「ミョン姉上は重い病にかかっていて、
ご自分が妻としてウクさまに十分なお世話が
できないことを悔いていました。
だからお亡くなりになるとき、
わたくしにウクさまのことを託したのです。
姉上は、義母である黄州院さまにも
ウクさまとわたくしの婚姻を願い出ていました」
「そうだったのか」
「はい。
その後、へ一族の思惑でわたくしに
神聖皇帝との婚姻が持ち上がり、
皇宮で暮らすことになりました」
「ああ」
「陛下が茶美園にいたわたくしを皇宮から連れ出したとき、
わたくしは正直に好きな方がいるとお話しました。
それはウクさまでした。
あの頃、わたくしたちの中では婚姻の約束ができていたのです」
下を向いてしばらく黙り込むソ。
優しく見守るス。
…
苦しそうな声で
「つまり…
おまえたちふたりの間に割り込んだのは
わたしの方だということ、か?」
肩を落とすソ。
ソの手を握って
「そういうことを申しあげているのではありません」
…
「ウクさまは生涯をかけてわたくしを守ると仰いました。
実際にわたくしの窮地を、命をかけて何度も救ってくださいました。
陛下に殺されかけたときも、助けてくれたのはウクさまでしたよね?」
顔を背けて、さらに小さく背中を丸めるソ。
「けれど、ウクさまには他に守らなければいけないものがたくさんあった。
お母さまである黄州院さま、妹のヨナさま、ファンボ一族。
一族と家族を守り、周囲からは皇位へのご期待もあった。
わたくしたちふたりだけの問題でなく、
もっと大きな困難がウクさまには待ち受けていたのです。
わたくしたちはそれを乗り越えることができなかった。
ただ、それだけです」
「困難を乗り越えることができなかった」
…「はい」
「陛下とわたくしは乗り越えることができた。
だからこうして一緒にいることができるのです。
ただ、それだけの違いだと思いませんか?」
…
(続きます)
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